広報PR担当者が仕事に取り組むうえでは、「ステルスマーケティング」に関する知識を正しく理解しておく必要があります。
ステルスマーケティングの意味や法規制の内容について把握していないと、予期せぬ炎上を招いたり罰則を受けたりと、企業の社会的信用を大きく損ねてしまう事態が発生します。また、2023年10月より、ステルスマーケティングは「不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」)」となったことから、より一層に注意が必要となります。
本記事では、広報PR担当者が知っておくべきステルスマーケティングのリスクと過去にあった事例、ステルスマーケティングを防ぐために行う5つのことを紹介します。
ステルスマーケティングとは?
「ステルスマーケティング」とは、商品・サービスを広告だと気付かれないように宣伝するマーケティングの方法です。「アンダーカバーマーケティング」とも呼ばれます。
ステルスマーケティングの多くは、以下のどちらかの手法で行われます。
- 企業が芸能人やインフルエンサーに、金銭などの報酬を支払っているにもかかわらず、その事実を隠して商品・サービスを紹介してもらう
- 企業の従業員や代行業者が、無関係な生活者のふりをして商品・サービスを勧める内容の口コミを投稿する
共通点は、「企業が関与していることを伏せた状態で宣伝や推奨を行うこと」。
「自分の意志で購入・使用した人の感想なら信頼できる」という消費者心理を悪用した、モラルを欠いた悪質な行為だといえます。
一般の生活者のふりをした口コミによるステルスマーケティングは特に見抜きにくいため、より悪質だと捉えられるケースもあります。
ステルスマーケティングは違法になるの?
これまで日本において、ステルスマーケティングは違法行為と認定されていませんでした。
しかし、2022年12月、消費者庁の有識者検討会がステルスマーケティングの規制強化に関する報告書を提出。
10月1日より、「ステルスマーケティングは景品表示法違反」となりました。
景品表示法で規制されるのは広告であり、一般消費者が広告であることをわからないものです。なお、規制の対象となるのは、商品・サービスを供給する事業者。投稿した側(芸能人、インフルエンサーなど)となる第三者は規制の対象とはなりません。
参考:令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。 | 消費者庁
生活者の情報提供などをもとに消費者庁が調査し、違反と判断された場合、再発防止を求める措置命令を発出。
広告を依頼した事業者名は公表され、措置命令に従わなければ2年以下の懲役または300万円以下の罰金、もしくは両方が科され、法人には最大3億円の罰金が科される可能性があります。
参考:ステルスマーケティングに関する検討会 報告書(消費者庁)
ステルスマーケティングを行うことによるリスク
ステルスマーケティングを行うことで、企業にはさまざまな悪影響があります。
ここからは、ステルスマーケティングを行うことによる5つのリスクについてご説明します。
1.商品・サービスに対する信頼を失う
ステルスマーケティングを行うもっとも大きなリスクとして挙げられるのが、商品・サービスに対する信頼を失ってしまうことです。
生活者が商品・サービスの購入や利用を検討する際に、第三者の意見を参考にしたいと思うのは当然のこと。ステルスマーケティングは、そのような心理につけ込み、自社の商品・サービスを購入させようとする狡猾な行為です。
ステルスマーケティングが明らかになれば、販売手法に対する反感だけでなく、「騙すほどのことをしなければ売れない商品・サービスである」という印象を与え、商品やサービスそのものに対する評価も大きく下がってしまいます。
2.企業に対する信頼を失う
ステルスマーケティングは、商品・サービスに対してだけではなく、それらの事業を展開している企業の信頼も損ねてしまいます。
たとえステルスマーケティングがごく一部の関係者の判断で行われたことであったとしても、世間にはそのような事情は伝わりません。「倫理観のない組織」「コンプライアンス意識の低い企業」というイメージを持たれるようになるでしょう。
一度でもステルスマーケティングを行ってしまうと、企業が信頼を取り戻すには長い年月や高額な費用がかかります。
3.業界全体への不信感につながる
ステルスマーケティングを行うことによる悪影響は、業界全体の問題にも発展します。
同様の事業を展開している企業の信頼性も低下し、業界全体の成長が鈍化してしまう可能性があるのです。
もし、ステルスマーケティングを行った企業に企業としての資産・体力があれば、謝罪や賠償などを経ていつかは難局を乗り越えられるかもしれません。しかし、その影響で業界全体の成長が鈍化してしまった場合、同じ業界の中小企業が廃業や倒産に追い込まれてしまう可能性があります。
ステルスマーケティングは、自社だけではなく業界全体への不信感を抱かせてしまう可能性があることを認識しておいてください。
4.インフルエンサーも信頼や仕事を失う
2023年10月時点では、企業側の依頼によりインフルエンサーがステルスマーケティングを行った場合、インフルエンサーが法律で罰せられることはありません。
しかし、ステルスマーケティングを行ったことが明らかになったインフルエンサーのフォロワーの中には、騙されたと感じ応援するのをやめてしまう人も多いでしょう。
個人で名前や顔を出して活動しているインフルエンサーにとって、悪いイメージがついてしまうことは致命的です。フォロワー数の減少だけではなく、企業からの新規の依頼も獲得しづらくなり、インフルエンサーとしてこれまで通りの生活を続けられなくなる可能性があります。
ステルスマーケティングは、インフルエンサーの生活を破綻させかねない危険行為であることを、依頼する立場である企業側は理解しておきましょう。
5.法による罰則を受ける
上述の通り、2023年10月からは、ステルスマーケティングは景品表示法違反となりました。
違反した場合、広告を依頼した事業者名が公表され、措置命令に従わなければ最大3億円の罰金が科される可能性があるのです。
行政処分を受ければ、企業イメージの悪化による業績低迷や、罰金・賠償などにより、企業の財務状況が悪化することが想定されます。
また、法律に違反したことが事実として残るため、監査や融資・助成金などの審査時に評価が厳しくなるなど、さまざまな面で悪影響がもたらされるでしょう。
ステルスマーケティングは具体的にどんなもの?知っておきたい事例
ここからは、過去に発覚したステルスマーケティングの事例を紹介します。
問題となった点や、再発防止策についても解説しますので、自身が関わっている業務を振り返る機会にしてみてください。
1.関係性の明示がないプロモーション投稿
ある商品の新発売に際して、SNS上で複数のインフルエンサーから同時期に「感想」が投稿されるという事例がありました。
どの投稿にも同一のハッシュタグが使用されていたにもかかわらず、「PR(プロモーション)」「広告」といった表記がなく、企業との関係性も明示されていなかったため、生活者から疑惑の声があがりました。
実際はいずれも企業側から金銭報酬を受け取ったうえでの投稿であったことが発覚しています。
このケースでは、企業の担当者のプロモーションに関する知識が不足していたこと、企業内部での情報共有が不十分だったことが要因として指摘されています。
広報PRやプロモーションに携わる関係者全員に、教育や研修、ガイドラインの周知を徹底し、知識と倫理観を身につけてもらう必要があります。また、コンプライアンス担当などの社員が定期的に各部署の動向をチェックできる仕組みづくりも重要です。
2.社員であることを伏せてSNS投稿
とあるメーカーの社員が、自身の所属を明かさずに自社の商品を推奨するような内容をSNSに複数投稿していた事例があります。
個人のアカウントで、同一企業の商品が「PR(プロモーション)」「広告」の表記なく頻繁に紹介されるため、生活者が違和感を持ったことをきっかけに明らかになりました。
このケースでは、社員個人のSNSで自社製品に関連する投稿を行ってはならないという社内ルールがあったにもかかわらず、徹底した周知・教育がなされていませんでした。
入社のタイミングはもちろん、定期的に全社員にルールを説明する機会を設けることで、無自覚にステルスマーケティングを行ってしまう事態を避けることができるでしょう。
3.代行業者によるやらせ
口コミサイトで生活者を装った代行業者によりウソの高評価を集めるという「やらせ」が発覚した事例もあります。
本来は個人ユーザーが自身の体験に基づいてリアルな声を投稿する場である口コミサイトに、実際は体験していない代行業者による、そのサービスを称賛する虚偽の口コミが多数投稿されたのです。
発覚のきっかけは、代行業者から営業を受けたという企業からの通報でした。
このケースでは、口コミサイト側のアルゴリズムやユーザー認証手続きにも課題があったとされます。
現在は、大手の口コミサイトではやらせの防止策や処罰も厳格になってきていますが、網の目をかいくぐろうとする不正業者とはいたちごっこが続くものです。
不正業者がステルスマーケティングをどんなに耳あたりの良い言葉で表現しようとも、それが生活者を欺く悪質な行為であることに気づく知識を、企業側は身につけておく必要があります。
ステルスマーケティングをしないために、広報PR担当者が行いたい5つのこと
企業と生活者のコミュニケーション全般に関与し、社会からの信頼を獲得することを目指す広報PR担当者。マーケティングやプロモーションに直接関与する機会が多くないという場合でも、ステルスマーケティングは全力で防止したいところです。
ここからは、誰もステルスマーケティングをしないよう、広報PR担当者が行いたい5つのことについてご紹介します。
1.マーケティングに関する正しい知識を身につける
まず広報PR担当者が、ステルスマーケティングに関する正しい知識を有している必要があります。ステルスマーケティングという言葉の定義や、ステルスマーケティングを行ってはいけない理由など、自分の言葉で説明できるように基本的な知識を勉強しておきましょう。
それだけではなく、インフルエンサーマーケティングの仕組みや依頼から実施までの流れ、インフルエンサー側の心理や実情についても把握し、そのうえで注意点を説明できると説得力が増します。
2.SNSアカウントの運営上のルールを作る
社員がSNSを利用するうえで守るべきルールをまとめ、全社に向けて周知を徹底することも重要です。
SNSの利用は、社員のプライベートに関わる領域でもあります。理想を押し付けるのではなく、「最低限守ってほしい内容」と「確実にステルスマーケティングにつながってしまうような禁止行為」に絞って、守ってもらうよう依頼しましょう。
また、サービスごとのステルスマーケティング防止策を把握し、ルールに記載しておくのも有効です。
例えばInstagramには、健全なマーケティング活動を行うために「ブランドコンテンツタグ」という機能が搭載されています。YouTubeには「プロモーションを含みます」と動画上に表示する有料プロモーション表示機能があります。
プロモーション・広告の際は必ずこうした機能を使ってもらうよう、サービスごとのルールをまとめておきましょう。
3.ブランド、インフルエンサーと認識をすり合わせる
プロモーションや広告に関する仕事を一緒に行う企業やインフルエンサーとは、仕事内容の認識のすり合わせを徹底しましょう。
その際、忖度したり、共通認識があると思い込んだりせず、協力企業やインフルエンサーがステルスマーケティングに関する知識をどの程度持っているのかをまず確認します。あまり知識を持っていないことが判明した場合は、こちらがレクチャーするような姿勢で丁寧に説明する必要があります。
特に、アマチュアとプロフェッショナルの中間のような存在であるインフルエンサーの中には、法規制などを意識せず活動している人もいます。第一印象や実績に左右されず、必ずステルスマーケティングに関する認識をすり合わせることからスタートしましょう。
4.誤解を生まない表現方法を周知する
「ステルスマーケティングになるか、ならないか」だけではなく、景品表示法などの法規制を踏まえたうえで「プロモーションや広告に適した表現方法」についても周知しておきたいところ。食品・美容用品などを扱う企業は、薬機法などにも注意する必要があります。
日常的に使用している言葉も、プロモーション・広告として用いると、景品表示法の違反行為に該当することも。
ステルスマーケティングの防止策とあわせて、プロモーション・広告に使用する言葉の注意点をまとめてガイドライン化できるとよいでしょう。
5.関係者に対し、定期的なリマインドを行う
社内外へ向けてステルスマーケティング防止のルールや仕組みをまとめることは非常に重要です。ただ、つくったルールや仕組みが形骸化してしまっては意味がありません。
ステルスマーケティングは企業の信頼を大きく損ないかねない不正行為です。月に1度を目安に、全社にリマインドを行うように心がけましょう。
SNSに慣れていない世代の社員の中には、ことの重大さについて理解しきれていない人がいる可能性もあります。価値観の違いがあることを前提に、回数を重ねて丁寧に説明していきましょう。
ステルスマーケティングを正しく理解し、企業の信頼を守ろう
ステルスマーケティングは、生活者の心理を悪用して商品・サービスを売ろうとする狡猾な行為です。ステルスマーケティングを行ったことが発覚すると、法律による罰則を受けるとともに、社会からの信頼を失ってしまいます。
商品・サービスの魅力を広く伝えたい、という強い気持ちで起こした行動が無自覚な不正行為につながってしまわないように、正しい知識を身につけること、ステルスマーケティングをさせない仕組みをつくることが大切です。
実際に起きてしまった事例も参考に、ステルスマーケティングに対する自身の解釈や、広報PR担当者として果たすべき役割について、振り返ってみてはいかがでしょうか。
PR TIMESにおけるステルスマーケティングの基準はこちらをご覧ください。
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<編集:PR TIMES MAGAZINE編集部>
ステルスマーケティングに関するQ&A
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