地表に放たれたレーザー光線が、地雷を高精度で見つけ出す

地表にレーザー光線を照射して土壌の振動の強弱を可視化した画像を生成することで、遠距離から高精度で地雷を検出できる技術を米国の科学者たちが開発した。地雷検出だけでなく、さまざまな構造物の検査にも応用できる可能性が期待されている。
地表に放たれたレーザー光線が、地雷を高精度で見つけ出す
Photograph: Kolonko/Getty Images

現在、世界には1億1,000万個以上の地雷が埋まっていると報告されており、2022年には4,710人が地雷によって負傷または死亡している。その85%以上が民間人であり、さらに半数は子どもだった。国際連合の報告によると、70カ国以上で日常生活が地雷の脅威に晒されており、その多くが現在も続く紛争地帯か過去に紛争が起きた場所である。

北大西洋条約機構(NATO)の軍事部門に属する変革連合軍によると、地雷は安価なものなら1個あたりわずか3ドルで製造できるという。ところが、それを除去するためには1個あたり最大で1,000ドルの費用がかかってしまう。しかも、ほとんどは手持ち型の金属探知機に依存しており、発見するには危険で時間がかかるうえに、プラスチック製の地雷の検出にはほとんど効果が期待できない。

そこで米国の研究者たちは、地表に照射して反射されたレーザー光線の周波数を解析することで、地雷を含む埋設物を検出できる技術を開発した。「地雷の数は紛争が続く限り増え続けていきます。この技術は現在進行中の紛争における軍事利用だけでなく、紛争後の人道的活動にも役立つでしょう」と、ミシシッピ大学の主任研究員のヴャチェスラフ・アランチュクは説明する。

振動の可視化で地雷を特定

アランチュクらの研究チームが2019年に開発したレーザーマルチビーム差動干渉センサー(LAMBDIS)は、車両で移動しながら安全な距離から埋設物を検出できる画期的な発明だった。LAMBDISの仕組みは、地表を振動させると同時にレーザー光線を照射し、振動によって反射されたレーザー光線の周波数のわずかな変化を音響センシングで解析することで、振動を色で見分けられるかたちで可視化した画像を生成するというものだ。地雷が埋まっていれば周囲の土壌とは振動によるレーザー光線の周波数が異なることから、画像では赤い斑点として表示される。

研究者たちは今回、30本のレーザー光線をライン状に照射していた従来のLAMBDISを改良することで、地雷の検出速度をさらに向上させることに成功した。新たなLAMBDISは、レーザー光線を34×23のマトリックス状に照射することで、より広範囲の振動を可視化した画像を1秒以内に生成できるようになった。

金属探知機はあらゆる金属の物体に反応してしまうことから、地雷以外のものが誤って検出されることも珍しくない。また、高周波の電磁波を地中に向けて放射する地中レーダー探査には、土壌の状態の影響を受けやすいという欠点がある。これに対してレーザーと音響センシングを組み合わせたLAMBDISは、遠距離からでも高精度で地雷を検出できることから、誤検出を減らせると同時に作業者の安全も確保できる。

研究チームによると、LAMBDISは地雷検出だけでなく、橋梁などの土木構造物の評価、自動車産業や航空宇宙産業における振動試験や非破壊検査(ものを壊さずに傷の有無や大きさ、形状を調べること)、さらには医療分野にも応用が可能だという。従来の方法では対応が困難だった条件下でも、振動現象を容易に可視化できる技術として期待されている。今後は、異なる土壌条件や埋設物に対してLAMBDISの性能を評価する計画だという。

(Edited by Daisuke Takimoto)

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