更年期とは奇妙なものだ。女性であれば、卵巣の中に一生分の卵子を持って生まれてくる。50代になる頃には、すべての卵子がなくなり、生理も来なくなる。ホルモンレベルが変化すると、ほてりや骨密度の低下といったさまざまな症状が現れてくる。ところが、その実情はあまりよく知られていない。なぜなら、こうした症状はヒトと一部のクジラだけにしか起こらないからだ。その上、女性の健康に特化した研究にはリサーチギャップ(未解決領域)があるのだ。
この状況を変えようと、最近では官民ともに多くの取り組みがなされている。昨年、ジル・バイデン大統領夫人は、更年期にみられる症状に関するリサーチギャップを埋めるために、「女性の健康研究に関するホワイトハウス・イニシアティブ」を立ち上げた。また、Apple Watchを使っている場合、月経周期の理解を深めるために設計されたアプリである「アップルの女性の健康に関する研究」にデータを提供することも可能だ。
10万人の匿名データを集約
11月11日(米国時間)、スマートリングメーカーのŌURAが、初の「Perimenopause Report」を発表した。「Oura Ring」を装着している10万人の匿名ユーザーから得た長期データを集約し、「閉経周辺期」(perimenopause)と閉経が日常生活にどのような影響を与えるかについての理解を深めるためにまとめられたレポートだ。
閉経周辺期とは、月経がなくなる閉経までの数年間を指す。身体に起きる症状がかなり多岐にわたるため、「第2の思春期」と呼ぶ人もいる。通常は4年ほど続くが、女性によっては最長で14年も続くこともある。全人口の約50%が、人によって症状は異なるが、約10年以上も寝汗による睡眠障害や記憶障害、あるいは体重増加(または減少)などを経験していると考えると、気が遠くなるような話だ。
閉経周辺期には何が起きるのか
ŌURAの調査結果によると、閉経周辺期に何が起きるのかを知っている女性はわずか28%だった。中学生が学校で、月経に備えて保健の授業を受けているのに比べて、これは大きな情報格差である。
最初に必要なステップは、起きていることを認識することだ。そのために、Oura Ringのアプリには最近、ほてりやホルモン補充療法(HRT)、シミなど17の新しいタグが追加された。タグを活用することで、ユーザーは自分のタイムラインで、症状のトレンドについてチェックできる。
ŌURAのレポートのなかで最も重要な発見のひとつは、閉経前後は睡眠に大きな影響を受けるということだ。閉経周辺期から閉経後期の初期にかけては、ほてりが急増する。ホットフラッシュは30秒から10分ほど続くことがあり、ホットフラッシュの69%は睡眠中に起きるので目が覚めてしまう。赤ちゃんの世話をしたことのある人ならわかるように、夜中に何度も目が覚めると、翌日の生活に影響が出かねない。
レポートによると、閉経周辺期の女性が報告した症状のなかで最も一般的なものは、にきびや腹部膨満感、偏頭痛だった。しかし、個人的に最も気になった結果は、閉経周辺期の女性の心拍変動(HRV)が20~30%も低下していることだ。HRVが高いと、神経系の反応性が高く、回復力があることを意味する。つまり変化する状況に対処でき、多くの運動量をこなせて、ストレスにも対処できる。一方、HRVが低いと(高血圧や心筋梗塞などの)心血管イベントのリスクが高まる。
ウェアラブルの力
閉経周辺期に現れがちな症状を経験していたとしても、どう対処してよいかわからない場合が多いだろう。更年期ホルモン療法は、多少議論の余地があるにせよ、よく利用される対処法のひとつだ。
Elektra Healthなどの企業のように、女性従業員の健康問題を解決する方法を大規模に提供することは容易でない。それでも、更年期に入って睡眠の質やHRVが低下していると気づいた場合、アルコールやカフェインの摂取量を減らしたり、定期的に有酸素運動を増やしたりすることは効果がある。
公的機関も民間企業も、スマートリングやそのほかのフィットネス用ウェアラブルの力を活用していけば、更年期特有の症状についての解明も進んでいくだろう。これは単なる想像の世界では決してない。自分ひとりで更年期を乗り越えようともがく必要はないのだ。
(Originally published on wired.com, translated by Miki Anzai, edited by Mamiko Nakano)
※『WIRED』によるウェアラブルの関連記事はこちら。健康の関連記事はこちら。
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