ヘルメス 450
ヘルメス 450
アメリカ合衆国税関・国境警備局のヘルメス 450
- 用途:偵察機、観測機
- 分類:無人航空機
- 製造者:エルビット・システムズ
- 運用者: イスラエル(イスラエル航空宇宙軍)他
- 運用開始:1998年
- 運用状況:現役
ヘルメス 450(Hermes 450)は、イスラエルのエルビット・システムズが開発した無人航空機(UAV)。
本項では、イギリス向けの改良型ウォッチキーパーについても記述する。
概要
[編集]V字尾翼を持つ推進式のプロペラ機であるが、細い円筒形の胴体に短いアダプターを介して主翼を乗せるという、シンプルかつ独特な外見を持つ。エンジンにヴァンケルエンジンを採用しているのも特徴。離着陸には滑走路を使用する。派生型として、航続時間を延長したヘルメス 450LEや武装化を可能にした攻撃機ヘルメス 450S[1]も存在する。
主な想定用途はISTAR(情報収集・監視・偵察・目標捕捉)やELINT(電子情報収集)、COMINT(通信情報収集)で、武装化が可能[2][3]である。武装化された攻撃機は、2011年のイスラエルによるスーダン領域内の「イランの攻撃目標」への空爆で実戦運用が報告された[1]。
操縦は高度に自動化されているため、オペレーターはセンサーの操作に集中でき1人での制御が可能。専用のUGCS(Universal Ground Control Station)には予備を含めて2台のコンソールがあるため、1つのUGCSから2機を同時に制御することも可能である。このUGCSは後に開発されたヘルメス 900とも互換性がある。
なお、名称の数字はkg単位の最大離陸重量を意味するものであるが、あくまでも機体規模の目安であり、本機の実際の最大離陸重量は500kgを超えている。
ウォッチキーパー
[編集]イギリス陸軍は、砲兵隊向けの弾着観測・目標捕捉用UAVとして、ヘルメス 450をタレスUKが改良したウォッチキーパー WK450(Watchkeeper WK450)を導入している。外見はほとんど変わっていないが、天候に影響されずに地上の移動目標を探知できるよう、EO/IR(電子光学/赤外線)センサーと合成開口レーダーを組み合わせて装備している。機体は分解してコンテナに収容でき、地上管制ステーション(GCS)もコンテナ式になっているため、トラックで容易に展開することができる。
エルビット・システムズとタレスUKの合弁事業として設立された合弁会社U-Tacs(UAV Tactical Systems)が主契約社となり、2007年7月15日に54機を発注、2010年6月の就役を目指したが、初飛行が2010年4月14日にずれ込み、最終的に就役は2014年となった。このため、イギリス陸軍は繋ぎとしてベース機のヘルメス 450を緊急調達することとなった。
2014年にはアフガニスタンに送られて実戦投入されたが、翌年10月には「引き渡し済みである33機の大半は保管状態にあり、実戦使用されているのは数機で、訓練済みのオペレーターは6名のみ」と報じられている。
2019年2月、ウォッチキーパーがイギリス陸軍における完全作戦能力(FOC)を宣言したことが報じられた[4]。
運用国
[編集]- アゼルバイジャン
- ボツワナ
- ブラジル
- ブラジル空軍にてRQ-450の名称で運用。
- コロンビア
- クロアチア
- キプロス
- イギリス
- ウォッチキーパーの他ヘルメス 450も運用しており、後者はH-450と呼ばれることもある。
- ジョージア
- 北マケドニア
- メキシコ
- シンガポール
- 2023年時点で、シンガポール空軍が9機以上のヘルメス450を保有している[5]。
- イスラエル
- イスラエル航空宇宙軍では"Zik"と呼称されており、同軍の第161飛行隊、別名ブラック・スネーク[6]及び砲兵隊 (イスラエル)[7]が運用している。
- アメリカ合衆国
- アメリカ合衆国税関・国境警備局などで運用。
注目すべき実戦運用例
[編集]ワールド・セントラル・キッチン職員殺害
[編集]2023年10月にパレスチナ・イスラエル戦争が発生すると、翌年2024年4月1日に、人道支援NGOのワールド・セントラル・キッチン (WCK) の3台の車両がガザ地区中部に位置するデイル・アル・バラフの倉庫に支援物資を届けた後、イスラエル国防軍との事前調整にも拘わらず、「非戦闘地域」を走行中に同軍のヘルメス450からのミサイル攻撃を受け[8][9]、7人の職員が殺害された[10][11][12]。死者には、オーストラリア人、ポーランド人、英国人、米国とカナダの二重国籍者、パレスチナ人が含まれており、国際社会から大きな批判を受け、WCKや連携する非営利団体の支援活動が一時停止した[10][11]。イスラエル軍は「重大なミスと手続き違反」を認め2人の将校を解任したと発表したが、WCKのエリン・ゴア最高経営責任者は、同軍は「自らおかした失敗について、納得のいく調査を行うことはできない」と指摘し、第三者機関による独立委員会による調査を要求した[12][13][14]。国連のアントニオ・グテーレス事務総長も同様に独立調査が必要だとの認識を示した[14]。
諸元(ヘルメス 450)
[編集]- 全長:6.1m
- 全幅:10.5m
- 最大離陸重量:550kg
- エンジン:UAVエンジンズR802/902(W) ヴァンケルエンジン(52馬力)×1
- 最大速度:176km/h
- 運用高度:5,486m
- 航続時間:17-20時間
- 行動半径:300km
- ペイロード:180kg
武装化
[編集]- ミホリット (מכחולית、Mikholit)ミサイル - ヘルメス 450用に改造された、イスラエル・エアロスペース・インダストリーズ社の対戦車ニムロッド ・ミサイルの射程10キロの空対地派生型[1][3]。
- スパイク (4基装着可)[15] など。
脚注
[編集]- ^ a b c アメリカ陸軍訓練教義コマンド G-2 2011, p. 4-16.
- ^ “Israel: IAF uses Hermes 450 drones for precision strikes on Hamas targets” (英語) (2023年10月16日). 2024年4月19日閲覧。
- ^ a b “ODIN - OE Data Integration Network” (英語). odin.tradoc.army.mil. 2024年4月19日閲覧。
- ^ Tim Ripley (2019年2月7日). “Watchkeeper achieves full operational capability”. janes.com. 2024年12月1日閲覧。
- ^ The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2023-02-15) (英語). The Military Balance 2023. Routledge. p. 288. ISBN 978-1-032-50895-5
- ^ Egozi, Arie (2023年10月16日). “Israel: IAF uses Hermes 450 drones for precision strikes on Hamas targets” (英語). Defence Industry Europe. 2024年4月20日閲覧。
- ^ “Israel's artillery corps starts using the Hermes 450 tactical unmanned aerial system | weapons defence industry military technology UK | analysis focus army defence military industry army” (英語). Army Recognition (2015年1月28日). 2024年4月21日閲覧。
- ^ Kubovich, Yaniv (2024年4月2日). “IDF drone bombed World Central Kitchen aid convoy three times, targeting armed Hamas member who wasn't there” (英語). Haaretz 2024年4月19日閲覧。
- ^ McKernan, Bethan (2024年4月2日). “Charities halt Gaza aid after drone attack that killed seven workers” (英語). The Guardian. ISSN 0261-3077 2024年4月19日閲覧。
- ^ a b “ガザのNPOスタッフ死者7人に 米英、ポーランド人も”. CNN.co.jp (2024年4月2日). 2024年4月9日閲覧。
- ^ a b “ガザ支援職員7人殺害、イスラエルに圧力高まる 米大統領は「憤慨」”. BBCニュース (2024年4月3日). 2024年4月9日閲覧。
- ^ a b “ガザ支援職員死亡で将校2人解任、イスラエル軍 「重大なミス」”. ロイター通信 (2024年4月5日). 2024年4月9日閲覧。
- ^ “ガザ支援職員殺害、イスラエルが調査報告の要旨発表 西側は全容公開求める”. BBCニュース (2024年4月6日). 2024年4月9日閲覧。
- ^ a b “イスラエル軍、ガザ誤爆で高官2人解任…国連事務総長「ミスが何度も繰り返されている」”. 読売新聞オンライン (2024年4月6日). 2024年4月9日閲覧。
- ^ “Drone Inventory” (英語). RUSI | Armed Drones in the Middle East. 2024年4月9日閲覧。
参考文献
[編集]- アメリカ陸軍訓練教義コマンド G-2 (2011年12月). “Worldwide Equipment Guide Volume 2: Airspace and Air Defense Systems” (PDF) (英語). アメリカ陸軍. 2024年4月21日閲覧。
- 井上孝司『軍用ドローン年鑑』イカロス出版、2016年8月。ISBN 9784802201957。