俳優高倉健さんは読書を好む人だった。どんな本を読んでいたのか。ルポライター、谷充代さんによる『高倉健の図書係』(角川新書)より、紹介する――。
俳優・高倉健がひときわ好んだ小説家
沖縄の石垣島は、撮影を終えた健さんが誰にも告げずにふらりと出かけたり、平成12(2000)年の春には、船舶免許の講習を受けたりと、心をさらす場所である。
その頃、ラジオ番組の仕事でこの島を訪れた健さんが、「こんなものがあったんですよ」と赤い線をたくさん引いて、ボロボロになるまで読み込んだ本を持参した。
「南極のスコット基地には、小さなデイパック一個しか持って入れなかったんですが、この本を詰めていったんですね」
命の危険にさらされた『南極物語』(1983)の撮影現場に肌身離さず置いて、何度も読み返したという『男としての人生山本周五郎のヒーローたち』(木村久邇典著)。
山本周五郎の過去の作品の名文句を数行ずつ抽出し、次々と紹介したいわば箴言集である。時代小説を中心に、人生をひたむきに生きる人間の哀歓を描き出した山本周五郎は、健さんがひときわ好きな作家だった。